インタビュー詳細
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浜松開誠館中学校・高等学校(静岡) 校長 髙橋 千広先生

探究を通じたSDGsの学びを実践する
独自の生徒育成体制


生徒の「地球を守ろう、未来を守ろう」という声が

校内全体に広がり「気候マーチ」につながる

当校は、静岡県浜松市にある併設型の中高一貫校です。1924年(大正13年)に誠心高等女学校として開校し、1998年(平成10年)に現在の浜松開誠館中学校・高等学校と校名変更・男女共学化。それ以来文武両面にわたって躍進を続けています。「誠心・敬愛」の校訓のもと、「ICT教育」と「グローバル教育」、また多様化する進路に対応できる「徳育教育」に力を注ぎ、グローバル社会において自らがチェンジメーカーとなりうる主体的な生徒の育成に取り組んでいます。

徳育教育とは、「礼儀正しく、日本の心を持ち、社会の中で生きる力を育む」教育のことです。中学校では、当校がオリジナルで開発した生徒の品格を育てる「K-compass®」プログラムを、高校では「7つの習慣J®」プログラムを導入し、「夢力・人間力」の育成を図っています。さらに2019年度からは徳育教育を進化させ、世界中で推進されている「SDGs(持続可能な目標)」を組み込んだ新プログラムを確立させました。

当校におけるSDGs関連の取り組みが始まったのは2019年。2019年といえば国連本部で「気候変動サミット」が開かれ、スウェーデンの高校生であるグレタ・トゥーンベリさんが各国の首脳らに対して地球温暖化対策の具体的な行動を求めるなど、環境危機に対する気運が高まった年でもあります。当校でも環境に対する危機感を持って、地球温暖化防止に取り組むNPO/NGO「気候変動ネットワーク」から専門家をお招きし講座を開講しました。その講座で、千葉県にある千葉商科大学が日本初の「RE100大学」を達成し、校内の消費電力量のすべてを再生可能エネルギー電力でまかなっているということを耳にした2人の生徒から「私たちの学校もRE100を目指したい」という声が上がったところから始まりました。

2人の生徒が中心になって、生徒会や部活動を巻き込んで「気候マーチ」を実施しました。気候危機を訴えるメッセージボードを持ちながら市役所を目指し、最終的には市長に気候危機を周知するための提言書を渡しました。このような取り組みは学校としても初めてのことで、教員の中には「生徒にこんなことをやらせるのか」と疑問に思った者もいました。しかしながら、教員はできる限り手を出さずに、生徒の主体性を信じて進めさせました。

「教育」というと、教員が口を出し、手を貸して、生徒は与えられた課題に取り組むといったイメージがつきものですが、大切なのは「何かを変えたい」と思った時に、自分で考えて自分の意志を持って行動することです。そうすることで、対象に対して興味を持つこともできますし、追求してみたいという主体性にもつながります。自分で考え、自分で動く。これこそが、これからの未来を生き抜く生徒に必要な「学び」です。これからも自分の意思で挑戦する生徒を育てたいと考えています。


探究を通したSDGsの学びを実践。

生徒主体で社会課題へ取り組む

これまでに400人規模の気候マーチを浜松市内で2回、コロナ禍となった2020年には1,000人が参加したオンラインマーチを1回実施しました。浜松市に若者が議論できる場「若者会議」の設置を提言し、2000年には第一回若者会議が行われました。オンライン気候マーチでは、環境大臣と意見交換する機会をいただき、以降もやりとりを続けています。そして、2021年には県内で再エネ転換を手がける企業と「再エネ100宣言 RE Action」の推進に関する協定を結び、その一環として当校のアリーナの屋上に太陽光発電設備を設置しました。校内照明のLED化などを推進し、再エネ比率を高めています。

当校の生徒主体の気候危機に対する取り組みはマスコミにも大きく取り上げられ、「環境白書」に掲載されたほか、気候変動アクション環境大臣表彰・大賞、静岡県地球温暖化防止活動知事褒賞、脱炭素チャレンジカップ2021環境大臣省・金賞を受賞しました。その一方で、SNSなどを通じて厳しい意見が寄せられたのも事実です。生徒たちに「何が正しいことなのか」を伝えたいという思いと、生徒たちの自主的な行動を支えられる学校でありたいと考えていたところ、環境大臣がCOP25閣僚級セッションで「若者のサステナブルへの思いに私は共感している。年長世代の気候変動への態度に怒りを感じている若者がいることもわかっている」というステートメントの発表がありました。その言葉は生徒たちの大きな力となり、自分たちの行動は間違いではなかったと確認することができたようです。


生徒が自分の「やりたい」を

自由に選択できる環境を整える

当校は生徒のニーズに応じた4つのコースを用意しているため、卒業後の進路も様々です。海外大学へ進学する生徒もいれば、難関国公立・私立大学や専門学校に進学する生徒、就職する生徒もいます。また、在学中に勉強を頑張りたい生徒や部活動に打ち込みたい生徒もいて、学校としてどのような環境を提供できるかが問われています。目指すのは、生徒個々が「やりたい」を自由に選択できる環境です。もちろん学力も重要ですが、必ずしも全員が同じカリキュラムを履修し、同じ時間を過ごす必要はないと考えます。最低限を習得し、やりたい活動に集中できた方が有効な時間の使い方ができるでしょう。カリキュラムが生徒を閉じ込める「鳥かご」ならならないように、最低限の土台を整えた上で好きなことに時間を使える環境を整えたいと考えています。

環境づくりの一環として、校則の検討も生徒主導で行っています。校則を変える場合も、「なぜこのような校則があるのか」「どういう校則だったらいいのか」から考えさせて、生徒は教員と話し合いを重ねます。生徒も教員も納得したものができ上がった段階で理事長と私向けにプレゼンを実施するという流れです。来年度からは鞄も自由になりますが、これも生徒主導で校則を検討した結果です。ほかにも「カジュアルデー」と題し、月に1回程度自由な服装で登校できる日を設けたり、自立して学ぶ姿勢を育てるために、4月に3日間だけ「教えない学校」を実施したり。定期テストを廃止したのも、一人ひとりの学習改善につなげるとともに、生徒の自主性を引き出すためです。これらの一つひとつの取り組みが、生徒のwell-beingにつながるという信念と覚悟を持って、教員一同生徒の指導にあたっています。

ただ、こうした取り組みが根付くまでには時間がかかりますし、何より教員の協力がなければできません。日頃から現場で生徒たちに寄り添い、悩みや課題に向き合いながらも、改革を後押ししてくれる教員には感謝しています。校長として時には現場に降りて一緒に取り組む姿勢を示すことも大切です。ふとした時に「こうしていきたい」というビジョンを伝え、短い言葉でも共有するように意識しています。やはり進むべき道がわからないと現場も不安になります。学校として目指すべき方向を示しながら、そこまでの道のりを見えるように働きかけることが大切だと考えています。



浜松開誠館中学校・高等学校(静岡県)

学 科:

中学校(アドバンストクラス、一貫進学クラス) 

高校 普通科(スーパー文理コース、グローバルコース、進学コース)

生徒数:

中学1年:82名/中学2年:69名/中学3年:74名

高校1年:329名/高校2年:227名/高校3年:280名​​​​​​​


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