浜松学芸高等学校(静岡) 校長 内藤純一先生
地域・社会のために存続する高校を目指して新時代に対応した普通科改革
「地域・社会のために存続する魅力ある学校」として地域に貢献できる人財を育成
本校は1902年(明治35年)の創立以来、明治・大正・昭和・平成の四世にわたって存続し続けてきた学校です。静岡県内の私学でも2番目に長い歴史を持った伝統校で、2022年には創立120年を迎えました。普通科は3コース体制を敷いており、難関大学への進学を目指す生徒を対象とした「特進コース」、地域の大学・企業と連携した学びで地域の将来を担う人財を育成する「地域創造コース」、理数系科目を中心にSTEAM教育(科学・技術・工芸・芸術・数学)で科学創造力を育成する「科学創造コース」が、それぞれの特徴を活かして生徒の個性を形にしています。
文部科学省の「新しい時代の高等学校教育の在り方ワーキンググループ」で提言されているように、高等学校にはスクール・ポリシーの策定・公表が求められています。本校にもスクール・ポリシーが無かったわけではありませんが、これを機に立ち止まって考えました。その過程でスクール・ミッションとして掲げたのは「地域・社会のために存続する魅力ある学校」です。静岡県・浜松市という地方の学校として自覚し、地域に貢献したい、地域に関わって仕事をしたいという人財の育成を目指しています。
本校が位置する浜松市に限らず、出生率の低下や高齢化による人口の「自然減」が問題になっています。それに加えて、地方で育っても大都市圏に流出してしまう人口の「社会減」はさらに深刻です。前者の「自然減」には抗いようがないものの、後者の「社会減」は努力次第で改善できるかもしれません。地域に存在する学校だからこそ、こうした地域の課題にコミットしなければならないと痛感し、先述のスクール・ミッションを策定しました。高校3年間の中で地域との関わりを増やし、将来地元に戻ってきたり、離れていても地元と繋がりながら働いたりする人財を一人でも多く輩出していくことが、学校としてできる地域貢献だと考えています。
地元の大人と触れ合う機会を提供し地域の魅力を再発見
その一環として、2020年には「地域創造コース」を、2021年には「科学創造コース」を普通科に設置しました。それぞれのコースでは、いわゆる「普通科」でありながら、地元の大学や企業と関わりながら学習することを大切にしています。例えば地元の鉄道会社と協業し、利用者増加に向けたポスターを制作したり、地元の企業から依頼を受けてCM撮影を行ったりする活動もしています。従来型の「大学入試のための高校生活」も大切ですが、それでは人口の社会減を防ぐことは難しいと感じています。高校生活を「地域で学び、社会で生きていくための3年間」と捉え、実際にフィールドに出て地元の大学や企業などで活躍する大人の方々と触れ合うことを通して、地域の魅力に気づいてほしいと考えています。
令和元年から3年度にかけて、文部科学省による『地域との協働による高等学校教育改革推進事業【地域魅力化型】』に全国の私立高校で唯一指定校として取り組み、また、令和4年度には文部科学省による『新時代に対応した高等学校改革推進事業(普通科改革支援事業)』の指定校に採択されました。そして、令和6年度に先述の創造系2コースを普通科から独立させる形で、新たに「探究創造科」を設置する予定です。従来の普通科が大学受験に向けた座学中心の授業だとすると、新学科が実現しようとしているのは大学進学を前提とした文系・理系の枠組みというより、実社会と実践的に繋がることを視野に入れた教育です。文・理それぞれの視点を融合し、「文理協働」「教科横断」的な活動をカリキュラムに取り入れた普通科改革を行っていきます。
「小さく産んで大きく育てる」学校経営において必要なリーダーシップとは
学校経営のトップとして、教育改革を推進していくうえで意識しているのは、生徒の10年後をイメージすること。学校改革の成果は短期的には目に見えにくいものです。実を結ぶのは10年後、15年後になるかもしれません。その時には後進に譲り、私自身は現場を離れているでしょうが、その結果に責任を負う気持ちは持ち続けていこうと思っています。学校経営上は、進学実績も確かに大切です。学歴という尺度はこれからも残ることでしょう。しかし、それだけではない時代が、すぐ近くまでやってきていると感じます。
校長になって7年目を迎えています。週一回の探究活動をはじめ、地域創造コース・科学創造コースも軌道に乗り、探究創造科の設置も予定しています。こうした一連の改革はトップダウンで進めようとしても簡単にはいかないでしょう。地域・科学の両創造コースについても、もとは6年前に始まった探究活動の取り組みが、質・量ともにコースとして成り立つほどの内容になってきたことにより生まれたものです。植物の生長と同様に、改革を実現するには種を蒔いて発芽を待たなければなりません。まずは既存の枠組みの中からできることを広げていき、その進展を支えていく。「小さく産んで大きく育てる」という考え方が重要になると思います。
中学生の進路選択では、最終的に「合格できそうなところ」を優先しがちです。そうではなく、「あの高校に行ったら面白そう」「やりたいことが勉強できる」という本来的な選択基準で入学する生徒が増えてほしいと願っています。学校が存続していくことこそが、地域への貢献、ひいては社会のためになる。その考えを根本として、学校の魅力化に努めていきます。
静岡県 浜松学芸高等学校(静岡県) | |
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学 科: |
普通科(特進コース・地域創造コース・科学創造コース) 芸術科(音楽コース・美術コース・書道コース) |
生徒数: |
1学年305名/2学年344名/3学年306名 |