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ICTを活用したカリキュラム・マネジメント

【こんなお悩みにオススメ】 
✔カリキュラム・マネジメントを軸にした学校改革に興味がある
✓募集改善に成功した事例を知りたい
✓スクールポリシーの策定を検討している

【コンテンツ】
1.新学習指導要領のポイント説明
2.テーマ座談会
2021.09.08
登壇者のご紹介:平井 正朗先生
現在、神戸山手女子中学校高等学校校長、濱名山手学院理事、大阪市教育委員、国際教育学会理事、全国芸術高等学校校長会理事。中高の学校経営や英語教育に精通し、多くの要職を歴任。著書に『平井校長の英語の仕組み探究講座』(三省堂)他多数。

中高の学校経営や英語教育に精通し、多くの要職を歴任されてきた平井先生にご登壇いただき、カリキュラム・マネジメントやスクールポリシーの策定を軸にした学校改革について、座談会形式でお話をいただきました。
本レポートは、このセミナーのコンテンツについて、書き起こし形式でお届けいたします。

1. 新学習指導要領のポイント説明

皆さんこんにちは。リクルートの木村(株式会社リクルートまなび教育支援Division支援推進2部部長兼支援企画部セールスイネーブルメントグループマネージャー)と申します。釈迦に説法のところもあるかも知れませんが、私からは基本的なところのおさらいということで、新しい学習指導要領のどの部分がポイントになっているのかということを、前提の情報として簡単にお話させていただきます。その後、変更ポイントをベースにして座談会をやっていくという形式を想定しておりますので、皆さんどうぞよろしくお願いいたします。

では学習指導要領の話をさせていただきます。『社会に開かれた教育課程』というテーマになっておりまして、どういう部分が開かれているのかということと、歴史的な背景も含めて、少しお話をさせていただければと思います。


10年に一度の改訂

学習指導要領は、およそ10年に一度のペースで改訂されていて、すでに移行期間に入っています。皆さん当然ご存知だと思うのですが、来年の4月から高校1年生でも正式に実施していく形になっています。小学校・中学校では、すでに全面実施が始まっていて、高校に関しては、来年から年次進行で進んでいく予定ということで、まさに探究など新しく変わる部分もあり、そこにも対応せねばならないタイミングにきている、という状態だと思います。


新学習指導要領の実施時期

平成元年あたりで『ゆとり教育』という話が入ってきました。社会の変化に自ら対応できる、心豊かな人間の育成ということで『ゆとり教育』が入ってきて、平成10~11年のタイミングでは『生きる力』という言葉が出るようになりました。これは基礎・基本を確実に身につけさせ、自ら学び自ら考える力などの『生きる力』の育成をしていこうという形で、学習指導要領が改訂されたというところです。

平成20年ぐらいのタイミングで、生きる力プラス『脱・ゆとり教育』というのが入ってくるんですが『基礎力・基本的な知識・技能の習得』と『思考力・判断力・表現力等の育成のバランス』ということを言われたのが、平成20年の改訂です。

今回『資質・能力』という考え方を再整理するということが、学習指導要領の改訂で入っています。これまでの流れを見ると、新しいものにガラリと変わるというよりは、より時代にあわせて変えているという形になっています。


改訂の基本方針は?

では基本的に何が変わったのか、という話ですが『資質・能力』の3つの柱というのを、バランスよく育てるというところが変わっています。実際に『資質・能力』とは何で、それをどういうバランスで育てるのか、というところに大きな変更が加えられています。1つめの、生きて働く『知識・技能』の習得というのは、これは元々言われていたもので、前の指導要領の改訂の時にも入ってきていますが『思考力・判断力・表現力等』の育成というのが2つめです。3つめが『学びに向かう力・人間性』の涵養という、この3つの資質・能力をバランスよく育てましょうというのが、改訂の基本方針になっているということです。


育成すべき「資質・能力3つの柱」

この3つの資質・能力をバランスよく育てることによって、社会で活躍できる人材を育てていくという話です。『資質・能力をバランスよく育てていきましょう』と定義されましたが、どうやって育てるのか、これから実際に学校の先生が考えていく話になりますが、具体的には次のページを見ていただきたいと思います。少し細かい文字も含まれているので、ゆっくりお話をしたいと思います。


新学習指導要領の概観

先ほどの資質・能力という話は、この図の上部に入っていますが、何ができるようになるかという話なんですね。これが、人間性や知識・技能、思考力・判断力・表現力等といった、割と抽象度の高い言葉で定義をされているものになりますが、ではこれをできるようになるために具体的に学ぶものは何か、というのが学習指導要領になります。

そこで、科目が新たに編成されるなどの変更があり、新たな学習指導要領になるという話です。基本的に学習内容が増えているだけで、削減はされていないんです。新たな教科・科目が新設されたり、探究といった内容が資質で入ってきたり、という形で追加されているものはありますが、削減されるものがなくて、実は内容が増えるだけという話になっている。

そこで増えていく内容をどうやって学ぶのか、学び方で工夫をしていこうという話がある訳です。この学び方というのが、主体的・対話的な深い学びや、後にも出てきますがICTを活用した個別最適学習による学び方という話になってくる。これを学校で実行していくためのカリキュラムを作っていきましょう、ということが要望されているんですね。

当然、3つの資質・能力を、新学習指導要領を使って、主体的・対話的で深い学びを活用しながらやっていくという話ではあるんですが、それを実際にやるのは学校の授業だったりしますよね。となった時に、実現できるようなカリキュラムを作ってください、という話がカリキュラム・マネジメントということです。

どういうカリキュラムで、どういう授業で、どういう学び方でやっていくのか、というのを具体的に設計してくことが、各校で求められている。ここが難しいんですが、学校で求められているのは、このカリキュラムをきちんと学ぶ内容と学び方を踏まえた上で、能力・資質が身につくように作ってください、という話になっているというのが、現況なのかなと思っております。


令和の日本型学校教育が目指す姿

これは今年10月の初等中等教育分科会で出たものですが、令和の日本型教育という話で、ここはあえて読もうと思います。『一人ひとりの児童生徒が、自分のよさや可能性を認識するとともに、あらゆる他者を価値のある存在として尊重し、多様な人々と協働しながら様々な社会的変化を乗り越え、豊かな人生を切り拓き、持続可能な社会の創り手となることができるようにすることが必要』という話なんですね。これをやっていくための手法論として、個別最適化と、協働学習の2つが重要であると言っています。

これは相反するような話なんですね。その子達の特長や、現在値にあわせた学びの最適化というのを、一斉指導ではなくやりましょう、という話をしながらも、その子達が協働的に学べるようにしていく。それを両立させるような学びを、令和の時代はやっていきます、と言っています。

3つの資質・能力というものを、実際にカリキュラムを設計した上で、学校でやっていく話になると思うんですが、そこでの手法論として個別最適と、協働が求められる、ということだと思います。

あとは協働というのも2つの考え方があって、生徒同士が学び合うとか、先生・生徒がお互いに学び合うというのも、もちろんそうなんですが、社会に開かれた学びという観点で言うと、例えば社会と学校との協働的な学びという、協働もある訳ですね。そこを踏まえた上で、どういうふうにカリキュラムを設計していくか、ということが求められるという形です。

資質・能力を身につけていくために、新指導要領で実際に学ぶものを掲示されて、その学び方というのは個別最適と協働を意識する形で、実際のカリキュラムを作っていくということです。口で言うのは簡単ですが、これがなかなか難しい。どうやるのかという話もありますが、実際にカリキュラムを作っていかなくてはいけない、ということになると思います。


カリキュラム・マネジメントの実現

実際のところ、カリキュラムをどのように作っていくのか、という話だと思います。資質・能力を磨いていく訳ですが、資質・能力という言葉は抽象度が高いので、それこそ知識・技能、思考力・判断力・表現力、主体性だとおいた時に、それを、どれくらい・なぜ・どの程度育てるのかということを、恐らく決めていかなくてはいけない。

どのレベルでどこを重視するのか、というのは、各学校の持つ教育目標に依存することになるのかなと思っていて、ここがしっかりしていないと究極、全部の学校が同じことをやるということが起きてしまう。学校の個別化や個性化はあまりできないので、すべてのカリキュラム・マネジメントというのは、教育目標を基にして設計されていくという話になるかと。

この教育目標、資質・能力というものを、どのレベルまで、どういう状態にまでもっていきたいかという設定があった上で、そこに到達するまでの実際のカリキュラムのデザインというものがある、ということです。

その教育目標に紐づく形で、例えば各科目で学ぶ内容や探究で行う内容、場合によっては授業外の活動も含めて、教育目標に近い人材を育成していくために、どんなカリキュラムを組むのかという話ですね。
そしてそれを実現するために、先ほど外の協働という話をしましたが、内部リソースだけでは限界があるので、外部リソースも含めてどうやって活用していくのかということを、再設計していくという話になると思います。

これは社会に開かれた学校としてやっていく上で、内外リソースを両方活用することは必要不可欠なので、そこを踏まえてどうやって全体のカリキュラムを設計するのか、という話になると思います。

それを見据えながら、ヒト・モノ・カネ・情報・時間の再配分をやっていくという話ですね。ひょっとしたら座談会のテーマになるかも知れませんが、そもそも外部リソースも含めてカリキュラムを組めているかということや、これまで何も定義されていなかったICTの活用も、カリキュラムに組み込んで設計できるかということも、ひとつのポイントになるという話です。

あとは教育目標到達のためのカリキュラム、外部リソースの活用というものが、どういう形で計画されていて、それをやってみてどうだったのか、という評価を核としたマネジメントサイクルを構築するという、実際にやっていることの評価も大事になってきます。上手くいっているところ、上手くいっていないところがあったら、修正して翌年よりよいプランをたてるというような、PDCAサイクルが回るようにしていくというのが、全体の設計になっています。

ではカリキュラム・マネジメントとは、どのようにやるのか。教育目標がしっかり定義された状態になっているかという話と、その教育目標に紐づく形のカリキュラムになっているのか。なっていないケースも非常に多いので、教育目標を達成するためのカリキュラムデザインに、そもそもなっているのかという話と、それを実現するために、開かれた学校という観点で見た時の、内外リソースの活用も含めたカリキュラムデザインになっているかという話と、それをどのように評価していくのか、という話です。この辺りのところが、実際のカリキュラム・マネジメントに必票な要素でしょうか。端的に言うと教育目標をしっかりと定義して、目標を達成するためのカリキュラムを作り、それをきちんと実行に移し、よりよく修正しながら回していくということです。

考え方としてはそうなんですが、これを実際にやってみるとどうなるのかというのは、実例を基にして考えないとイメージがつきづらいと思いますので、今日はその辺りも含めた座談会になるかと思っています。ゲストの校長先生と合流した上で、具体的な話をお聞きいただければというふうに思っております。

ということで、私からの指導要領の改訂のポイントの説明は、以上とさせていただきます。ありがとうございます。

2. テーマ座談会

続いては本日のメイン、テーマ別座談会に移らせていただきたいと思います。こちらのパートでは4つの対談テーマについて、神戸山手女子中学校・高等学校校長、濵名山手学院理事、大阪市教育委員、国際教育学会理事、全国芸術高等学校校長会理事でいらっしゃる平井先生をお招きしてディスカッションをさせていただきます。それでは平井先生、どうぞよろしくお願いいたします。

登壇者のご紹介:平井 正朗先生

現在、神戸山手女子中学校高等学校校長、濱名山手学院理事、大阪市教育委員、国際教育学会理事、全国芸術高等学校校長会理事。中高の学校経営や英語教育に精通し、多くの要職を歴任。著書に『平井校長の英語の仕組み探究講座』(三省堂)他多数。
木村:よろしくお願いいたします。ここからは対談ということで、テーマ座談会という形でお話をさせていただきたいと思います。今も登壇者ということでご紹介させていただいたのですが、平井先生からも簡単に自己紹介をお願いしてもよろしいでしょうか。

平井:はい。私はこの4月から神戸山手女子中学校・高等学校の校長をしております。私学にはもう長年勤めておりまして、その1/3以上が管理職を務めてきました。その中で主にカリキュラム・マネジメントによる学校改革などを実践して参りました。よろしくお願いします。

木村:平井先生、ありがとうございます。今日は、私が前段でお話させていただいたテーマに紐づく形で、一つひとつ具体的にどのようにやっていらっしゃるかという話を、質問させていただく形で進めていければと思っております



テーマ① 教育目標の設計

「学校の教育目標の設計、精緻化に関してどのように取り組んでおられますか?」


木村:まず1つめの質問です。教育目標の設計という話です。私学ではすでに教育理念があると思いますが、そうはいっても以前にできたものだったりするじゃないですか。その中で、教育目標を今の教育にどうやって生かして、どのように接続されていらっしゃるのか。そんなお話を聞かせていただければと思うのですが。

平井:わかりました。教育目標の設定ですね。私は公立も関わっていますので、両方ともコメントさせてもらおうと思っていますが、私学については、基本的に教育ミッションや建学の精神があるんですね。これについて、毎年取っている学校評価や授業満足度の経年比較、そこから出てきた課題など、それらをうまく抽出しつつ、PDCAを組みながら建学の精神に基づいた年間の重点目標を決めている、という実態なんですね。

そして公立については、私が関わらせてもらっている大阪市の例で言いますと、大阪市教育振興基本計画というのが掲げられているんですね。この振興計画というのは、小学校・中学校が教育実践をしていく上で、教学面やコンプライアンスなど、様々な面から到達数値目標を立てていて、それをベースにして各校で年間目標を作っていくことになっています。当然のことながら各校には特長がありますし、課題もある訳で、そこと関連づけながら作っているという実態ですね。

ですから公立の場合は、教育委員会が中心となって、そこから課題抽出のための方策が出てくる。それを各学校で落とし込んでいくということになりますが、私学の場合は単体ですので、学校評価や授業満足度という毎年実施する振り返り、そういったものを見つつ、次年度の目標を立てているという形です。

もちろん単年度の目標ではなく、中期ビジョンや長期ビジョンを立てますので、1年単位のひとつの目標と、さらに5年後・10年後を想定しながら方向性を出している、というのが重点目標の設計ということになります。

木村:なるほど。今の貴学でいうと、未来型リーダーシップ、国際などがテーマとしてあがっていると思いますが、これは元々あったものなんですか?

平井:本校の場合、97年前に創立した女子高ですが、2年前に法人合併をしたんです。この10年を振り返ると、生徒数がかなり厳しい状況まで減ってきている。減ってきた要因は、ガバナンス・マネジメントが機能不全を起こし、結果、セクショナリズムに陥ってしまい、学校としてワンチームになり得ることができないかったから、ベクトルが1つに向かない。従って、教学面においても生徒指導面においても色々な問題があるんですが、PDCAサイクルがなかなか回りにくい。結果として良循環型の学校経営にならず、生徒が減っていくという状況だったんですね。

その中で新法人は教育ミッションとして、コミュニケーション、コンシダレーション、コミットメントの頭文字をとって3Cを定めました。コミュニケーションは会話能力、コンシダレーションは判断、先ほど出た思考力・判断力・表現力でいうところの判断ですよね。コミットメントは関わり合いになるんですが、そういったものが1つの教育ミッションとして立てられたわけです。

コミュニケーションは誰とするのかというと、この時代ですから当然、国内だけではなくて海外にもその対象はある訳です。そうなるとグローバルというのは当然出てくるし、そのグローバルの中でコンシダレーション、判断する、そしてコミットメント、関わっていくということもあります。

 97年前の建学の精神は、『自学自習』と『情操陶冶』だったんですね。『自学自習』というのは、今でいう個別最適化学習ですね。『情操陶冶』というのは、非認知能力のことで目に見えない力です。学校というところは、教科学習のように目に見える力を育成しているんですが、目に見えない部分、つまり人間性や人柄といった社会で通用する人材育成にも寄与していますよね。それがベースにありました。

 それを融合していった時に、個別最適化学習は新しい取り組みだけれど、非認知能力的なものは未来永劫変わるものではない、不易流行のもの。これをうまく組み合わせて、時代にあわせるとグローバルが出てきた。さらに言えば、先ほど出た未来型リーダーシップですね。これはやはり時代を考えると、これから先が読みにくい。課題山積ですね。その中で、最適解・納得解が導けるような人材育成をしていかないと、社会に通用する人間が育たない訳です。といった観点から、未来型リーダーシップというテーマが出てきた。そこから探究に結びついていったというのが背景ですね。

木村:普通に考えたら、100年続いている学校さまが法人合併した時に、それぞれが持つ教育理念を、ひとつの概念として統合するというのは、難しいかなと思うんです。お互いのよい所を組み合わせて、新たな概念を作るということをされた訳ですか?

平井:そうですね、不易流行という言葉がありますが、教育の世界でも変わるものと変わってはいけないものがあると思うんですね。だから時代の潮流に目線を合わせて、新しく組み込む必要もある。結果として出てきたのが、先ほど申し上げたコミュニケーションやコンシダレーション、コミットメントになっていった。それを1つの新しい法人のテーマとして設定するんですが、歴史と伝統がありますので、今までずっと培ってきたものに上手くブレンドするための検討を行い、今回の学校改革に繋がったということなんですね。

木村:なるほど、ありがとうございます。あともう1つお伺いしたと思っていたのが、管理職や経営者の方々は、皆さん教育目標というものを考えていらっしゃると思うのですが、浸透という観点で見た時に、特に新しい概念を作った時に学内浸透をどうしていくか、という課題があると思うのですが、その辺りはどのようにされているんですか。

平井:私は管理職になってから、分権型リーダーシップを重視しているんです。つまり学校が設定する目標を全体に落とし込んでいくためにはミドルリーダーの経験値を十分に生かしつつ、次世代リーダーを育てていく必要があると思うのです。

この10年を振り返ってみると、大枠を示すのは校長なんですね。けれども各分掌、学年教科の到達目標については、各分掌長、学年主任に主体性をもたせ原案を立てていただき、合意形成のために職員会議で3分間スピーチしていただいています。そして、ミドルリーダーになった人達が、自分の表現で同僚に落とし込む。わからなければ聞く、話し合いをもつということを繰り返して浸透を図っているといます。

木村:厳密に言うと、トップダウンはやっていないということですね。概念的なものは示すけれど、具体で言葉にするのは現場なんですね。

平井:そうですね。トップダウン型とボトムアップ型の融合です。見た目はトップダウン型に見えてしまうんですが、現実的には私が示すのは大きな方向性、枠だけなんですね。

 例えば英語教育を例にあげると、私がお願いしたのは「コミュニケーションのための使える英語と大学入試に通用する英語の習熟」これだけです。あとの部分については、英語科の方で具体的に中1~高3まで各学年どういう目標を設定するか、その設定した時のPDCAをどうもっていくのか、授業満足度評価に対する取り組みはどうするのか、あるいはその結果に対してさらにPDCAをどう回すのかを考えていただく。それをフィードバックしてもらうという作業なんですね。その中で課題があれば、こちらの方から助言をすることもあるし、なければ任せることもある。というように分権型、これを周知徹底させるということが大事かなと。

木村:ありがとうございます。話を伺うとやはりどの学校さまも、理論の設計もそもそも迷うんですが、浸透の方がはるかに困っていらっしゃる気がしていて。その中で、実際にやる人達に考えてもらうということが大事ですよね。

平井:私の役割の1つは『率先垂範』だと思います。丸投げではなく大枠を示した後に、ミドルリーダーの人達が仲間たちと合意形成をし、それが生徒達、保護者に伝わっていく経路を作っていくためには、やはり彼ら以上に勉強して多くの情報を持ち、その情報を適宜落とし込んでいく。それを使うか使わないかというのは、現場サイドで判断すればいいんですが、教員も日々忙しい訳ですね。新しい情報はそんなにすぐには入ってこないし、勉強する時間をとりたいと思っていても難しい。その部分というのは、こちらからいくつか提示して、選択の余地を与えてあげることが大事かなと、そう思っていますね。

木村:なるほど。逆に考えることができるための機会提供はしなきゃいけない。

平井:そうですね、教師も探究だと思いますよ。正解のない問題、最適解や納得解を求める探究学習の意義を考えてみると、身の回りには正解のない問題が世界中に山積している。それに対してどう取り組んでいくかというとき、1教科の中で得点を争うような次元ではなく、複数教科の教科横断的な背景知識を持って、論理的に考えて、結果として課題を見つけて解いていくということが求められている。その結果、探究という教科が出てきたと思うんですね。だからそれを生徒に求める以上、教師も探究を求めなくちゃいけないと思っているんですね。

我々も学校で生徒をお預かりしている以上、中学校にしても高校にしても様々な正解がない課題に直面することが多いんですね。もちろん方向性を決めて、それに向かって走っていくんですけれど、その通りになる訳ではなくて、やはり凸凹があったり障壁があったりするんですね。その部分を乗り越えるために、常に探究する姿勢が必要なのかなと思います。だから教師も探究ですね。

木村:逆に僕らが探究しているのか、不安になったりしますね。教育に関わる我々がやらなきゃいけないという話ですね。ありがとうございます。では次のテーマにいってみましょうか。


テーマ② 個別最適な学び

「個別最適な学びを実現していくために、現状取り組んでいらっしゃる内容を教えてください。またICTの活用についても教えていただきたいです」

木村:今、教育目標という話があったのですが、次は学び方という切り口で見た時に、個別最適学習というのを学校でやっていこうという話になっているじゃないですか。僕らから言わせれば、やはり一斉指導では、先生1人対40人の生徒がいる訳じゃないですか。個別学習を先生が学校でやれというのは、そもそも無理な話なんじゃないかと思っていて。そうなると、ここはICTを使わなくてはいけないところだと思っているんですが、個別最適の学びというのを、どういう切り口で検討して設計していらっしゃるのか、教えていただきたいと思います。

平井:私の学校でも、ICTを活用したアダプティブ・ラーニングを推進させてもらっているんですが、その根底にあるもの、つまり個別最適化学習であれ、集団授業であれ、これらは皆、ツールなんです。なぜそれをするかということですよね。生徒はなぜ学校に来ているかというと、自分の夢を叶えるとか、あるいは自分自身を成長させたいから、来ている訳ですよね。

私が教職員の方々にお願いしているのは『進路満足度100%』です。大学に入ることが目的ではなくて、大学は通過点に過ぎない。そこでどういうスキルを磨いて、どう社会で貢献していくのか、結果として自分の夢をどう実現するのか、ということを教えてあげて欲しいと。

そして卒業の時、生徒達に、学校評価にしても満足度にしても「この学校を選んでよかったですか?」という質問をしたいと思うんですね。それに対して「はい」と答える生徒が100%となるようにしていこう、というのがベースなんです。ではその進路満足度や、自分自身の夢の実現に向けての満足度を高めていくためには、一人ひとりが自分の興味・関心の対象を見つけて、それに向かって自学自習していく、個別最適化していくことが重要ですよね。

この個別最適というのは、昔から名前は違ってもあったと思うんですね、集団授業と個別授業。もう20年前、30年前から集団授業にかわって個別授業に焦点を当てられたのは、一人ひとりの興味・関心や到達度にあわせた指導をしていくと、その生徒に合うレベルアップができるから、焦点が当たったと思うんですね。そこにICTが入ってきたので、より働き方改革にも対応できるし、もう1つ言えば、生徒の学力向上と資質向上にぴったり当てはまるから、個別最適に注目が集まっていると思うんですね。

 EdTech導入補助金を使って、本校でもいくつかの個別最適なEdTech教材を入れているんですね。これを使うことが主ではなくて、あくまでツールであって、授業が50分あるうちの大半は、教師が今まで通り集団授業をするのです。過去を振り返ってみると、集団授業をして問題を解いている時の生徒というのは、内容が分かった生徒は全部解けるし、わからない生徒はそこで止まっている、でも全員同じ空間にいますから、できた生徒もできなかった生徒も同じ場所にずっといる訳ですね。これでは教育の効率化が図れない。

 EdTechの強みというのは、その生徒が問題を解くと、AIが自動分析して到達度にあう問題を設定してくれる。だから集団授業で教えている時はわからないけれど、個別で解いている時間に、先生方が机間巡視をしながらその生徒の到達度をチェックをすることができる。

 且つ、個別最適化学習ですから、自宅に帰って生徒が学校で解いた問題の類題を家で解くことができる。それを教師が自分で確認することもできるし、アドバイスもできる。ということで、個別最適化学習が重要だと思うんですね。ですから個別最適というのは何のためにやっているかというと、進路満足度を高めるためにやっていて、そのためのツールなんだと。そのツールの使い方というのは、あくまでも一人ひとりが決まった場所、決まった時間で、自分達の学力に合わせたものを解いて到達度が測れる、という意味で入れているということです。

 これは、平行して教員の働き方改革にも繋がっていきますね。今までは教員が授業をして、その類題を問題集から探してきて生徒に与えるという作業だったんですが、けっこう時間がかかるし、現実問題として限られた問題の中ですから、設定することが難しいんですね。個別最適で自動分析をして類題も出てくれるということは、その時間を削減することができますから、その時間を使って教員は授業研究することもできるし、生徒一人ひとりの進捗状況を管理して、アドバイスする準備をすることもできると思います。

 そういう取り組みで、結果的に本当にカリキュラム・マネジメントとしてできたかどうかということを確認するために学校評価を年2回、授業満足度を年2回行う。そこで振り返りをしてフィードバックする、そういう循環的な機能にしているということですね。

木村:今、平井先生のお話を伺っていると、個別最適は2つあるなと気づきました。その子の学力レベルにあわせた個別最適という考え方と、その子のゴールの個別最適という考え方があるなと思ったんですが、例えば進路実現というのは多様ですから、その子のゴールというのは、それぞれ違う訳じゃないですか。その個別最適というのと、あと教えるという観点で見た時の個別最適というのもあると思うんですが、逆にそうなると、教育目標は難しいなと思ってしまったんですが。

平井:本校の場合、シラバスを生徒・保護者にすべて公開することにしました。次年度から一般にも公開しようと思っているんですが、シラバスというのは1年間での到達目標と、学期ごとの到達目標があると思うんですね。なお且つ全教員にお願いして、授業の始まりに黒板の横に学習の目標というのを書いてもらっています。ですから今おっしゃられたように、個別最適はゴールとしての個別最適と、単元毎や授業の単位としての個別最適があって、それは非常に多様性を持っているので、到達度やコースに応じて担当者がすみ分けていかなくちゃいけないのかなと。

 担任の先生は、1年間とか3年間のゴールというところに目を向けるべきだし、教科担当の先生は、自分が教えている内容に対しての、目の前のゴールに目を向けるべきだなと思っています。

木村:なるほど、勉強になります。結局その授業でいうと、当然教えている内容の到達を見なくてはいけないんですが、期間は論理的に長い履歴で考えれば考えるほど、どちらかというと抽象度を上げた形になっているということですね。

平井:そうです。去年も3カ月の休校がありましたが、今回のように休校措置があると、生徒が学校に来ることができない訳です。その期間中にどれくらい対応できたかというのがポイントだと思っていて、今後もコロナ禍がどう収束するか見えない状態だから、いつ休校になるかわからない。休校になった時に、実際生徒の進捗状況を担任もしくは教科担当がチェックできるような取り組み、それが今後、個別最適学習に繋がっていくのかなという気がします。

木村:言い方は悪いですけれど、コロナで直接触れられないからこそ、この辺りのカリキュラム・マネジメントの手法が磨かれる、というところはありますね。

平井:もともとICTというのは、コロナ以前から言われていたのであって、経産省にしても文科省にしても、個別最適という捉え方はしていました。ただし学校によって温度差がありますから、個別最適やICTが完全に浸透するかというとなかなか難しいし、経済的な問題も出てくるので、学校全部がそれをできますかというと、厳しい問題があります。

ただ今回のコロナ禍によって、加速度的に各校1人1台という動きになってきた。だから個別最適という言葉を使うなら、それを支えるためのカリキュラム・マネジメントという入口ー中身ー出口、生徒の進捗状況を管理するといったことが、十分に行える体制や環境が整ってきたのかなという印象ですね。


テーマ③ 協働的な学び

「協働的な学びについて2つの側面から取り組んでいらっしゃることをお伺いしたいです」
①生徒と先生、生徒同士の協働的な学び
②学校と学校外のステークホルダーとの協働的な学び


木村:ありがとうございます。話が尽きないんですけれど、今は個別最適という話でしたが、もうひとつ協働的な学びという話があります。これも先ほど言った通り、2つの協働があるのではというところで、生徒と先生、生徒同士の協働という意味で、授業の中の組み立てに関して先ほど個別最適という話があったと思うんですが、協働というテーマでいうとどうですか、という質問と、あとは学内学外との繋がり、協働というこの2点でみた時に、今考えていること、やっていることをお伺いしたいです。

平井:協働は、探究の授業に尽きるなと思うんですね。協働というのは、生徒同士の協働がありますし、今は学外、つまり産学協働も重要な取り組みだと思っているんです。とりあえず校内でやれるのは探究学習ということで、生徒同士で1つの正解のないテーマに対して取り組みをしていきますが、その時に調べ学習をして、複数資料を読み取って、自分なりの課題を見つけて答えを導くんですけれど、その答えが納得解・最適解になっているかどうか十分にグループ・ディスカッションしながら進めていくということが、協働的になってくるのかなと思いますね。

ただそれは同じ年代ですよね。本校でもそうですが、産学協働を重視していて、色々な民間企業に関わっていただいています。学校の教員が設定するテーマというのは、どうしても教科学習に偏りがちですが、民間の方々というのは社会のリアルな問題を設定されているから、こちら側にも非常に興味関心の高いものもある訳です。それを一緒にやっていく。でもそういう場合は教科のエキスパートかも知れないけれど、教科横断的なエキスパートではない訳ですね。ですから民間の方にも毎回ではないですが、定期的に中に入ってもらってテーマに対するアドバイスをいただいて、生徒達のグループディスカッションをして探究に結びつけていく。というのが今の本校の取り組みですね。

木村:平井先生の話を聞いていて、ひとつ面白いなあと思ったことがあって。語学研修をされていると思うんですが、修学旅行の語学研修で語学習得をあまり重視されていないと聞いて、かなり驚きました。探究もそうなんですが、修学旅行などの行事の設計でも、言語の習得以外に国際感覚を磨きたい、といった志向があるのではないかと。

平井:そうですね。グローバル教育と英語教育の違いだと思うんですね。英語コミュニケーション力をつけるための研修であるならば、オンラインにしても海外に行くにしても、4技能5領域を中心にした取り組みをすればいい。ただ本校では、グローバル的な視野を持った生徒を育成する目的がある訳です。グローバルとは英語が使えることではなくて、他の外国の人達・生徒達が、あるテーマに対してどんな意見を持っているのか、どういう考え方をするのか、ということを学ぶことなんですね。高校を卒業する時には、それを理解していて欲しい。

本校はニュージーランドの学校と連携しているんですが、このコロナ禍で行くこともできないし、来ることもできない。担当の先生が一生懸命研究してくれていますが、なかなかグローバル教育を具体的な形にできない訳です。そこで相談に来られたので、あるヒントというか、ひとつサジェスチョンしました。それは何かと言うと、自動翻訳機を使うことです。

実際に、英語が使える生徒ばかりじゃないんです。英語が苦手な生徒もおり、コミュニケーション力はそこまで高くない。ましてやニュージーランドの少し特徴のある英語を話されると、ついていけない生徒もいる。だから目的として英語教育ではなく、グローバル教育を推進している以上、ニュージーランドの高校生がどんな考え方を持っているのかということを知りたいんですね。じゃあ自動翻訳機でニュージーランドの学校と繋いで、あるテーマに対してニュージーランドではどう考えているか、日本人はどう考えているかを、お互いに意見交換したらどうだろうかと。

例えばアーダーン首相は、30代で首相になり出産も経験された方で、コロナ対策に関しても、1人でも罹患すればロックダウンをするという、厳しい施策をとっています。ニュージーランドという国はそういうやり方をしているが、それに対して日本ではどうか、という企画もできるだろうし、ニュージーランドの取り組みに対して、日本人の高校生がどういう発想を持っているのかということも言えると思うんですね。そういった言葉の投げ方をすることによって、自分達の納得解を求めるということをやっていったらどうか、ということを今研究しているところです。

木村:平井先生、英語の先生ですよね。英語の先生が「自動翻訳機でいいじゃないか」という発想自体が新しいですよね。

平井:もちろん英語を聞けて話せればいいんですが、17歳で果たして全員できるのかというと、なかなかできないんですね。今の小学校6年生でみると、英語が教科化されている。大阪市のように小学校の早い段階から、モジュール学習を含めて課外活動として英語に触れる習慣をつけていれば、高校生になった時にかなり聞く力がついていると思うんです。でもそれ以前というのは、語法・文法を中心にやっているところがあって、以前に比べればコミュニケーション力が上がったのでしょうが、まだまだ高校生には課題があるんですね。

だから何に焦点を定めていくのかという時に、英語の教師だからこそ、もちろんコミュニケーション力をつけて、英語力を上げて欲しいけれど、もしそこに課題があるとしたら、誰が主体かを考える。学校は生徒が主体、生徒ファーストですよね。主体の生徒が目の前で理解ができなくて、本来の探究の目的が果たせないんだったら、目的が果たせるような企画にしたらよいというのが、実は考えていたことなんですね。そこでサジェスチョンしたということです。

木村:逆にツールとしての語学がなかったとしても、物の見方、考え方としてのグローバルが身につくんだったら、英語を使ってやるということにこだわらなくてもいいんじゃないということですね。なるほど、その辺りが柔軟なんですね。

平井:教科横断ということもありますしね。1つの教科の枠内で、子ども達の到達度を測るという考え方ではなくて、今回の大学入学共通テストもそうでしたが、一部の問題では複数の資料を読み取ってその中から最適解を求める、というものもありました。また来年から高校のカリキュラムが年次進行で改訂されますね。歴史総合や地理が必須になったりしていて、時間的なものと空間的なものを織り交ぜたような取り組みをしている。教科横断的な動きにもっていきましょうというのもありますね。

そういうパラダイムシフトというのは、高等学校でも必要なのかなと思うんですね。だから勇気を持ってやってみる。ただ教職員に言っているのは「失敗してもいい。取り組みなので、それを強制するものではないし、やりたいと思ったらやってみたらよい。でも失敗から何を学んだかということを教員も知って欲しいし、生徒にもフィードバックして欲しい」と。そんな願いがありますね。


テーマ④ カリキュラムの計画と評価

「教育目標を実際のカリキュラムに落とし込み、且つ観点別評価に落とし込む取り組みをどのように計画されていますか?」

木村:ありがとうございます。今ちょうどテーマ④のカリキュラムの計画と評価という内容に、自然に入ってきました。まさにカリキュラムの計画と評価の話をしていただいたんですが、少し途中でも出てきましたが、教育目標というのを、ある程度期間によって概念の抽象度を調整されているんですよね。コマの目標、学期の目標、学年の目標、卒業時までの3年間というように。

平井:大テーマと小テーマを設定しています。評価だけではなく成長させていくために、中高6貫、高校3年間で大テーマをこちらが設定して、小テーマというのは学年クラスに任せていて、それを生徒達に開示しています。そういった取り組みをしているのと、あとは教科レベルでいうと「シラバスを作成しても下方修正してよい」と言っています。

シラバスを作成する時に一番やってはいけないことが目次のコピー。私立でも公立でもそうなのですが、教科書はあくまで言語材料にすぎず、シラバスを作成する時に、自分の教えているコースの生徒は、どういう視点で伸ばしていくのかが明記されていなければならないと思うのです。コロナ禍ですから、シラバスで立てたものが、すべて予定通り進むとは限らない。だから場合によっては修正しても構わない、という話はさせてもらっています。

木村:それは面白いですね。なんとなく到達度とか、作ってしまうじゃないですか。例えば英検®2級くらいの力と仮定した時に、届くケースと届かないケースがあると思うんです。実際には届いていない子もいると思うんですが、ちゃんとその子達のところまで下りていって、下方修正して少しでも伸びた方がいいということですね。

平井:それに、たとえ下方修正して進度が少々遅れたとしても、個別最適化学習の一番のポイント、つまり、本質理解に向けて自学自習できる習慣がつけばよいと考えます。基礎・基本となる教科書レベルがしっかりわかれば、自学自習はできるはずです。その自学自習ができるようになるために、非認知能力を鍛える。それはクラブ活動や色々な行事だと思うんですが、それができれば自然と鍛え上げていかれるのです。どういう目標を設定するにせよ、基礎・基本をしっかりやって自分で勉強する習慣さえつけば、必要な力は伸びるんじゃないかなと、つたない経験からも感じますね。

木村:評価という切り口の大事なポイントがあるような気がしていて、到達したら善、到達しなかったら悪、という感覚がどこかにあるじゃないですか。そうではなくて、どちらかというと評価というのは〇×ではなくて、現在値を見た上で修正する素材なのかなと。

平井:そう思いますね。これからの学校の成績評価のつけ方なんですね。5段階の中で何%というのは、私はもう古いと思っていまして、5が全員でもいいんじゃないのという発想なんですね。実際にそれは教師の視点でつけますが、その妥当性・信頼性・客観性はどこで見るのかというと、学校評価や授業満足度だと思うんですね。

本校でいくと、すべての教科で授業満足度をとっていますが、それを振り返ってもらうと、自分の指導は生徒たちに十分伝わったのかどうか、あるいは成長実感があったのかどうかということが、見ればわかる訳です。それは平均点だけではなくて、結果としてあがってきます。その部分を見れば、年に2回やる訳ですから、今うまくいっていなくて、この調子でいくと伸びないと思うのであれば、修正すればよい。そこで子ども達が自ら決まった時間、決まった場所で取り組む習慣さえつけば、自動的にあがってくるという考え方ですね。

木村:なるほど。計画通りにいくことが正義だという考え方から、脱却しなくてはいけないですね。

平井:そうですね、予定は未定。予定通りになってくれることが1番望ましいけれど、もしならなくても、主役は誰かということなんですね。だからそこに焦点をあわせた指導、これが今後の大きな柱じゃないかな。そして生徒自体が、本質を見極める力をつける。

色々な教育テーマがありますが、私は教科学習というのはあくまでもツールで、目的としての『本質を見極める力をつけてあげること』こそが、学校の役割じゃないかなと思います。それが従前の教育だったら、教科学習が主体であった。今回の指導要領であれば、教科横断的アプローチの指導になった。ひとまとめにすると、最終的な目標は『物事の本質を見極める力をつけること』。この部分というのは、大学入試にも出ているんじゃないでしょうか。難関と言われる大学になればなるほど、見た目は厳しいですが、解けば解くほどすべて本質を追求している訳ですね。見極めていますよね。その部分に全部帰着するという気がしますね。

木村:いや、大変勉強になりました。何を聞いても的確な答えが返ってきて、なるほど思うことが多かったです。ちょうど予定の30分が経ちましたので、平井先生、今日はお忙しいところありがとうございました。

平井:どうもありがとうございました。

平井先生、ありがとうございました。ではここから続いて学習ツールスタディサプリのサービスについて、木村の方からご紹介させていただければと思います。

3. スタディサプリの紹介

平井先生のお話の後に、サービスのお話をするのは気が引けるんですが・・・スタディサプリのセミナーということで、特にテーマに絡めた形でお話をさせていただくと、個別最適化に非常に向いた教材だと、スタディサプリに関しては言えると思います。別のセミナーでMicrosoftさんやGoogleさんとも共同でセミナーをやらせていただいているんですが、協働学習はそれこそ、TeamsやGoogleさんのコミュニケーションツールなどが活用される素材になっていると思うんですが、我々は主に個別最適化学習に向けての教材だということをご理解いただければと思っております。


スタディサプリ創業の想い

それではスタディサプリの学校での使い方について、簡単にご紹介させていただきたいと思います。

スタディサプリができて10年近く経つのですが、元々は「教育格差を解消したい」という想いで作っていました。地域によって塾の有無などの環境差があり、学校間でも格差が出てしまうということに対して、低価格で学びたい意欲のある人達にコンテンツを提供していく、ということからスタートしています。

当初は個人向けにやっていましたが、今では学校経由での利用が、個人での申し込みよりもはるかに多い、というサービスになっています。

結果的に一定、教育格差の解消には貢献できたのかなと思っていますが、やがて我々は『やる気の格差』というものに直面することとなりました。もちろん意欲のある子達はどんどんスタディサプリを使っていき、例えば『塾のないような離島でも、京大に受かりました』というような、よい事例は多数出てきたのですが、言葉を選ばずに言うと、子どもの学習意欲が上がってこない限り、よい教材があっても使わないので、やる気のない子はどんどん取り残されていく、という事象に直面しました。

この状況を解消していくためには、学校の先生と手を組んでやっていくしかない。日々子どもと向きあう学校の先生と上手く連携することにより、子どものやる気を高めていき、やる気が出た時に学ぶコンテンツを、便利な形で学校に届けるということをやっていければ、やがてやる気の格差が少なくなって、みんなが主体的に学んでいくようになるのではないか、という想いで、今の仕事をさせていただいております。


学校向けスタディサプリのご紹介

学校向けのスタディサプリはどういう教材か、すでにお使いいただいている学校さまもあるかと思いますが、簡単にご説明させていただければと思います。全体のサービスのラインナップでいうと、個人向け、学校向け、あとはグローバルがあります。グローバルは、スタディサプリではなく『Quipper』というブランド名で、世界に展開しています。実は今まで、小1~小3までの教材がなかったのですが、新たに登場したことにより、小学校講座、中学校講座、高校講座、大学受験講座、スタディサプリENGLISHと、小学生から大学受験、資格試験対策までを網羅した形で、個人向けを展開しています。

学校向けには『スタディサプリfor TEACHERS』という先生向けのものと、学校専用の『スタディサプリENGLISH』というものがあります。
このように、多様な教育のステークホルダーの方に使っていただける教材になってきたという形です。


学校向けスタディサプリとは?

学校向けのスタディサプリというと、講義動画が思い浮かぶと思いますが、最初は『受験サプリ』という名前で始まったため、いわゆるオンライン予備校というようなイメージが強かったんです。実態としては、講義動画だけではなくテストの教材やドリルの配信機能、コミュニケーションができる連絡機能等、様々な機能が一体となった仕組みになっていて、総合的なICTサービスとなっています。
本日は、基本的な学校用パッケージについてお話をしていきます。


学校を取り巻く教育改革の動向

こちらは先ほどもお話しましたが、来年からまさに指導要領が本格的に始まり、まったなしの状態になってきています。ということは皆さんもご存知の通りかと思います。


先生方を取り巻く環境と課題

先ほど「個別化と協働学習がテーマです」という話をしましたが、急に出てきた話ではなくて、以前からある話なんですね。先生方はすでに日々忙しい中で、個別化をやりたくてもできない状態になっているところを、ICTを活用することで解消していく。それを我々のサービスを使って、実現していただくことができるのではないかと思っています。

少子化の流れの中で、1つの学校に分布している子どもの学力がかなり多様化しており、どこかのレベルに合わせて授業をやると、簡単すぎてつまらないという子と、難しすぎてわからないという子が、一定の比率で発生してしまう、ということが避けられない状態になっています。それを個別最適化学習でレベルを合わせていくことによって、みんなが理解できて楽しく学べるという環境を、実現していきたいということです。

一人ひとりに向き合う時間がない中、ICTを活用することによって個別最適化プラス先生の業務時間をできるだけ増やさない、ということを実現できたらと考えています。


スタディサプリを活用した課題解決

一斉授業でカバーできる範囲には限界があります。授業が簡単すぎるという子がいれば、難しくてわからないという子もいます。その子にあわせた学びを提供できればよいのですが、常に全員をサポートするのは物理的に難しい。そこで一人ひとりの情報を可視化して、各自にあわせた学びを簡単に提供できるのが、スタディサプリによる個別最適学習です。

授業が物足りない子には上級レベルの宿題を配信する、わからない子には学び直しの復習問題を配信するというように、ボタンひとつで簡単に行うことができます。個別最適化学習を実践していく上で、スタディサプリのようなICTツールを活用するということは、先生の時間的な限界を補う、ひとつの有効な手段になり得ると思っています。



詳細機能のご紹介

一人ひとりにあわせた学びを提供するために、レベル別の講義動画を用意しています。小学校1年生から高校3年生まで、それぞれ最大4レベルまであり、レベルにあわせて適切な講義動画を提供することができます。また到達度テストという、各自の学力の現在値を把握しにいく、絶対評価型のテストもあります。さらにレベルに合わせた宿題の配信と、進捗管理をする機能も備えています。
ポートフォリオを大学入試に接続するという話は頓挫しましたが、ポートフォリオは大学入試のためのものではない、と我々は考えています。その学校でどのような物の見方、考え方を身につけたのか、という履歴だと思っています。3年間のナレッジが自分の中で総括できるように、学校での活動内容をしっかり履歴として残しておくことができるようになっています。
先生から生徒へのメッセージが送れるだけではなく、保護者へのお知らせができる機能も、新しく追加されました。時間的・空間的な制約のある中で、先生と生徒、先生と保護者のコミュニケーションの簡略化や効率化もできるようになっています。


『スタディサプリfor TEACHERS』という、生徒の状態を把握できる学習管理機能があります。宿題配信や提出物の進捗状況、テストの結果や進路希望など、一人ひとりの状況を一元把握できるシステムです。面談などにも活用していただけると思います。ENGLISHの学習管理では、宿題配信や学習履歴を見ることができます。

スタディサプリメソッド

スタディサプリは、個別最適学習で知識・技能を、できるだけ効率的に早く学べるようにする、ということを基本的な強みとしていますが、先生方の時間が有限であるということを前提として、我々は知識・技能にかかる時間を圧縮したいと考えています。それは、非認知能力EQといわれる部分を高めるための時間を、捻出することが狙いです。効率化を図りながら基礎を築き、探究や主体性育成、進路支援など、自立的なキャリア選択に時間を割けるようになる教材として、認知能力・非認知能力共に高めていくことを目指しています。

多くの導入実績

現在1500校ほどの学校さまに導入していただいていますが、去年のコロナ禍で、自治体で一括導入するという事例も増えております。まさにこの1年で、ICTの普及が一気に進んだということを感じるような導入実績になっています。全国で5000校弱の高校がありますが、3割強くらいの学校さまが導入しているという状況です。


先生からの声

先生からの実際の声でいうと、やはり『個別最適学習の充実に役立った』というのが1番高く、教材としての強みは恐らくここにあるんだろうなと感じています。『生徒の学力向上に役立ったか』という質問でも、8割くらいの評価をいただいていて、今のところ高い満足度を得られているのかなと思っています。後は、メッセージやアンケートといった業務負担になりがちな作業の軽減という部分も評価されていて、教科学習以外でも役に立てているのかな、という結果でした。


また『主体性の育成に寄与したい』という話がありましたが、オンラインの宿題でも学力が確実に身につくということは、何年かやってきた中で実証できています。またポートフォリオ機能を使って、目標設定・振り返りという習慣をつけることにより、目標設定自体の質が上がり、主体性を伸ばすことに寄与しているということがみえてきました。

今後もコンテンツを充実させていき、子どもの幸せな未来を実現できるような、総合的なサービスを提供していきたいと思っております。より子どもの成長に寄与できるような教材を、さらに準備していきたいと思いますので、どうぞご期待ください。

私からのスタディサプリの説明は以上となります。
本日はありがとうございました。
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