セミナーレポート

MANABI MIRAI MEETING 2017 【基調講演】山口 文洋 教員の働き方改革を推進するスタディサプリ 〜教育改革を実践するためのICT活用の必要性・可能性について〜

(株)リクルートマーケティングパートナーズ代表取締役社長
山口 文洋
2017.10.27
(株)リクルートマーケティングパートナーズ代表取締役社長 山口文洋
2017年9月23日に、リクルート本社ビルにて開催されたMANABI MIRAI MEETING2017。半歩先の教育のカタチをみんなで考える場として、多くの教員の方々にご参加いただきました。本レポートは、プログラムの中の基調講演を、書き起こし形式でお届けします。

教育の現場でICTインフラを活用すると、どのようなメリットがあるのか。また、一部の仕事をICTが代替するようになった時、教師の本当の役割とはどういったものになるのか。実際のICT活用事例や、導入する際のハードルを克服するヒントを交えながら、「スタディサプリ」生みの親である(株)リクルートマーケティングパートナーズ代表取締役社長の山口文洋が講演します。

自分自身が聞いてみたいお三方の話を続けて聞いて

山口文洋と申します。今、全国の学校さまに対して、進路選択キャリア教育というところと、学習支援というところでお手伝いをさせていただいており、リクルートマーケティングパートナーズの社長をやらせていただいています。

象徴的な肩書でいきますと、スタディサプリの言い出しっぺです。6、7年前、リクルートに入り、一社員だった頃、学校現場や、学校の放課後の子どもたちの教育環境を見た時に、先生方をもしくは生徒さんを支援するサプリメントみたいなツールを作りたいと思い、スタディサプリというサービスを立ち上げました。

実は今、スタディサプリと同じようなツールを、教育環境がより困難な状況に面している、東南アジアや中南米にも展開しています。この本社をグローバルでロンドンに置いていて、そちらの社長もやらせていただいています。

皆さん、今日すずかんさん(鈴木寛さん)から藤原さん、そして冨山さんのお話、どうでしたか?すべての話で考えさせられることがたくさんあったのではないでしょうか。

このお三方のお話を続けて聞いてもらうことで、いろんなヒントが見つかるのではないかと。学校現場をどのようにすれば、子どもにとってより良い教育の場に進化していけるのかを考えていただけるきっかけになるのではないかと、自分自身が一番聞いてみたいお三方に声を掛けさせていただきました。皆さんお忙しい中、今日のこの、夢のような講演が実現いたしました。本当にありがとうございます。

今日、ここに約100名を超える先生方に来ていただいています。大体6割ぐらいが校長先生、教頭先生のポジションで活躍されている方。そして4割は現場の教職員の皆さんです。

偏差値で分けても、本当に標準分布と変わらないような比率で、関東圏を中心に、地方からも来ていただいています。

そういった意味でも、すずかんさん、藤原さんのすべての学校に向けた教育改革の背景、そしてその中での、これから21世紀で変わらなきゃいけない、藤原さんの言葉で言えば情報編集力、その必要性を改めて皆さんも再認識されたかなと思います。

そして冨山さんの、G型とL型という考え方を通して、超進学校、進学校が育てていくべきG型の人材と、そして進路多様校を中心に、その地域社会をより進化させていくL型の人材をどう育てていくかという話。改めて、十把一絡げではなく、ここにいらっしゃる参加した先生一人ひとりが、自分はここからどちらの生徒を育んでいかなきゃいけないのか、といったようなことを頭の中で考えていらっしゃるのではないかと思います。

教育改革を進めるにあたり、頭を悩ませる学校も多い

すずかんさんのおっしゃるような教育改革に、すでに前から挑戦していたような学校や、進路多様校として、先ほどのL型のような、地域社会で活躍していけるような人材を育成する、そういった先進的な取り組みをしている学校に、今日は全国から来ていただいていて、私のこの箸休め的な話が終わった後、そちらの校長先生方にお話をしていただきます。

実際にどういったこだわりを持って教育改革、もしくはこれからの産業界に必要な人材育成を、中等教育でやっているのか、というお話が待っています。そこにもう一度、集中力を高める意味で、ブリッジとなる話をさせてください。

今日のこの話、さっき藤原さんもおっしゃいましたが、すごくいいお話だったじゃないですか。だから、学校の他の先生方にも今日の話の内容をぜひ伝えたいとか、いろんなニーズが出てくると思うんです。

今日の内容はこの後、10月30日(月)発売の『AERA』や、多くのビジネスパーソンが見ている『NewsPicks』といったニュースメディアで、特集記事が出る予定です。

また、スタディサプリ上に特設サイトをつくり、そちらには今日の映像、もしくはこの発表の内容をアップします。今日の内容の詳細や、見られない講演などは、そちらの方で見ていただきたいなと思っています。

今日のすずかんさん、藤原さん、冨山さんの話の中で、やっぱり20世紀と21世紀というのはドラスティックに世界が変化する。子どもたちに育んでいかなくてはいけない能力というのも、大転換があるんだなということは、たぶん皆さんご認識されたかと思います。

それを実現するために、すずかんさんでいうと、やっぱりアクティブラーニング。もしくは、プロジェクトベースドラーニング(PBL)みたいなものが必要ですし、G型の育成がしたいならば、英語4技能みたいなものが必要です。もしくは、これからの教養とかも含めると、STEM(Science,Technology,Engineering and Mathematics)教育みたいなのが必要となる。

こういった、いろんな教育の必要性が出てくる。これをやらなくてはいけないというのが学校現場なんですが、本当にできるのかというと、難易度が高く頭を悩ませている学校が全国に本当に多くあるのかなと思っております。

世の中の常の「二八の法則」じゃないですけど、2割の学校については、それをすでに率先垂範されて実現しているところもあれば、やはり8割の学校は、この大きな変革に対するリソースとかケーパビリティも含め、やりたいけどなかなかできないというところが本音じゃないかと思います。

そしてもう一つのポイントは、変わるにあたって、どういう手順でやっていいのかがよくわからないというところが多いんじゃないかと。いろんな学校さまの変革支援をしている中で、今日は地に足をつけて、どこからあるべき姿に変革していくのかという、そのお話をさせていただければと思っています。

企業と学校現場の共通キーワードとなる「働き方改革」

今、学校に求めているこの内容って、実は企業経営でも求められていることだらけなんです。だから今、スタディサプリで学校さまを支援しながら、私自身が企業経営をしていることでぶち当たっている、企業と学校現場での共通ワードが、「働き方改革」です。
企業が働き方改革をやっていますというニュースは、皆さんもいろいろ見ると思うんです。これ学校と一緒で、企業も生き残りをかけて、G型の会社もL型の会社も、次の成長の芽をつくらなきゃいけないということで、社長は従業員に対して、やれ、新規事業を開発していこう、新商品をつくっていこう、新しいお客さまへの提案をつくっていこう、と言っています。

そしてそれをやるために、ルーティンの仕事をいかに捨てて効率化して、こういった新しい取り組みをできる時間、リソースを作っていけるかというのが、今すべての企業に置かれている命題なんです。

それと同じく、学校でも、21世紀に向けた人材育成をしなきゃいけないから、ここに書いてあるような新しいことをやらなきゃいけない。だから今までほとんどの時間を使っていた基礎知識教育、もしくは進路選択支援といったような従前の業務を、どうにか効率化しないと実現できない。

学校は、企業とは違いまだまだICT環境が整っていない

このように、実は企業も学校も同じような経営課題にぶち当たっています。ただ、この企業と学校、唯一違いがあります。それは何か。
企業は積極的にICTというテクノロジーを仕事の中に入れ込んできました。1995年にWindows95が出れば、ほとんどの企業がパーソナルコンピュータを導入し、2000年になると、オラクルとかSAPのような世界の名だたる企業の会計システムとかサプライチェーンシステムを入れて、すべての業務がアナログではなくデジタルにて、一気通貫で処理されるような仕組みを入れました。

そして2000年代に入ると、すべての社員にスマートフォンを手渡し、最近ではそのスマートフォンを生かし、会社という場に来なくても仕事ができる。お客さまと会社が離れた場所にあるなら、会社に来なくとも、直行直帰で営業しに行っていいよと。その代わり、無駄な移動時間を削減し、新しいことに時間を使っていこうと。そういうことを積極的にやってきたんです。
結果として、企業で働いていますと、ほとんどの処理がデジタルの中で仕組み化されている。昨今では自動化されて、数年前までちょっと時間がかかっていたような業務が、今だと自動化されてやる必要もなくなったという環境ができあがっているんです。そしてこのできあがった中ですら、もっと働き方改革をしようと言っているんです。
でも、学校はどうかというと、公立だと特に、国や自治体からの投資も含めて、ここまでのICT環境はできあがっていなかったというのが現状ではないかと。

その中で教育改革をやりましょう、エイエイオー!と言われているのは、私のような企業マンからすると、え?企業がこの20年間やってきたICTの進化を一気にこの数年で学校でやるんですか?と感じてしまうわけです。

さらに、企業経営ですと、リソースも考えますから、あれもこれもそれもと言ったところで、従業員もできないことがわかってます。経営者として、あれだけやろうって言うものなんですけど、やっぱりマクロで考えています。

あれもこれもそれもお願いしますとなると、ダブルパンチがきて、なかなか選択と集中がしきれないというのが、今の学校現場なのかなと思っています。

できている学校は、求められる中でいろんな選択と集中をされている。もしくは、しっかりとステップを刻んで、実現に向けて歩んでいる。いわゆるマネジメントがしっかりされている学校が、変革に向けた基盤整備と教育カリキュラムの進化を図られているのではと思っています。

まずは業務の効率化、断捨離から始める

ということで、今日我々がぜひご提案させていただきたいのは、これ企業経営と一緒で、PBLだ、アクティブラーニングだ、英語4技能だ、STEM教育だと、いっぱいやらなきゃいけない新しい教育はあるんですけど、そんな中で学校でまずやるべきことは、今やっている業務の効率化、断捨離だと思います
この効率化をすることなくして新しいことをやってしまったら、今以上に教育現場の負荷が高くなりますし、文科省が求めているような教育カリキュラムを本当に生徒さんに提供できるともなかなか言えないかなと思います。

もし今、文科省が求めるような教育改革ができていないというような学校があったとするならば、まずはとにかく慌てることなく、一歩目は今の無駄をなくすということを徹底的にやる

さっきの冨山さんのお話を聞けば、特にローカル人材を育てる中では、今やっていることを効率化して、もっと生徒に向き合うだけでも、この後のローカル人材の育成が十分できると思うんです。

慌てることなく、ぜひこれまで積もりに積もった業務を効率化し、そして生まれた時間やリソースで、新しいことをやる。これもプロセスをつくったり、選択と集中をして進めるというところが、学校経営と企業経営とはまったく一緒かな、と思っています。

ちょっと宣伝めいたことが入りますが、僕は企業がICTのインフラやツールを使っているのと一緒で、学校にも学校に特化したICTのインフラやツールを、ぜひうまく活用してやっていただきたいなと思っています。

別に僕、弊社のサービスだけじゃなくていいと思います。いろんなところが出てきて、自分の学校の方針に合うツールを選んでいけばいいと思うんです。こういったツールを、ぜひ積極的に使うことを考えるのが、企業経営が進化してきたのと同じように、学校経営、学校運営が進化する一つの手段になると思っています。

スタディサプリで一人ひとりに合わせた学習プログラムを

スタディサプリが他の業者さんのツールと違うところは、生徒さんに対して、どの大学、専門学校に行く、どの就職をするといった進路選択と、そこに向けた日々の勉強、受験対策という学習支援を一気通貫させたサービスで提供し、裏側で、先生がそれをしっかりデジタルデータとして管理し、業務の効率化を実現できる、生徒と先生の両方に対するインフラをシンプルに提供するというところです。僕らはそこにこだわって作っています。
例えば、「スタディサプリ進路」という進路選択サービスがあります。これは日本の人事部といわれるリクルートだからこそこだわっています。進学校、超進学校に合わせたG型の進路選択ということにフォーカスしたツールだったり、もしくはローカルというところにフォーカスしたキャリア、もしくは職業研究みたいなことがきっぱりと分けてできるような進路選択ツールという形になっています。
進学校から進路多様校まで含めて、高校1年生から高校3年生まで、単なる大学、専門学校の名前で決めるのではなくて、これからどんな社会が広がるから、また自分はどんな適性があるから、こういった進路を決めていく、というところに、一気通貫するようなプログラムを作って提供していたりもします。

学習支援の方も、これまですべてがアナログでデータ管理されたものを、デジタルで一気通貫する。例えば勉強のPDCAについても、プランというところでは、まず生徒さんの現状の学習の習熟度、到達度がわかるようなアセスメント。これは紙で提供していますが、これを受けることによって、一人ひとりの生徒さんの英語・数学・国語といったところの、これまでの学習習熟到達というのを、一つひとつデジタルのカルテで管理し、出すことができます。これまでの習熟度合いが一人ひとり違うので、それぞれの学習習熟到達度に応じ分けた、苦手克服という宿題のプランができる。

またチェックというところでいうと、今回河合塾さんと提携し、基礎学力の定着度を正確に測定し、偏差値などの提供を行うテストを我々のデジタルデータと連携させることにより、地域もしくは全国で、いわゆる絶対評価ではなく、相対評価でのレベルのチェックができるようになりました

さらにその結果を含めて一人ひとり異なった宿題を作成し、苦手なところを克服していってもらうといったことができます。今までは、模擬試験の結果が紙で出ても、先生はなんとなく理解はしているけど、パワーの問題で、やっぱり宿題はクラス全員一緒、みたいな形だったかもしれません。それが今、一人ひとり別々に提供することができます。

ですので、実は進学校よりも、進路多様校のように学力の標準偏差が非常に広がっている学校に受けて、利用活用が進んでいたりもします。

テストも、予備校のような授業の動画も、ドリルも、自動採点も、先生がすべてアナログで作るのが良いのか改めて考えて、インフラがあるならそちらに任せてしまうというのも、時間創出のための一つの方法かなと思っています。

すべて文科省の学習指導要領に合わせて作っていますので、例えば今回の大学の入試で融合文問題みたいなのが出てくれば、即座に我々のコンテンツをどんどん変えていきます。昔のものではなくて、これからの大学入試、学力の到達度テスト、そして変革に合わせたプログラムで更新し、コンテンツを提供しています。

インフラで、生徒一人ひとりの情報を管理できる

また、こういったテクノロジーについて、僕はスタディサプリというインフラは、今世界ナンバーワンのテクノロジーレベルを有していると思っています。人工知能を使った仕組みはOECDにも評価していただいていて、先日のリスボンの学会にも我々のチームが呼ばれています。
(株)リクルートマーケティングパートナーズ代表取締役社長 山口 文洋
先ほどの冨山さんの会社と、東大の松尾豊さんという、日本の人工知能の第一人者の研究者と一緒にこのアルゴリズムを作っているからなのかもしれません。学習データ、もしくは日々の学習ログから、しっかりと一人ひとりの苦手分野をデータで把握し、そこからのきめ細やかな勉強プランニングといったところに生かしています

なので、アセスメントを受ければ、生徒の一人ひとりの過去の苦手分野がどこだったのかというのがわかるかもしれません。今でもいろんなアセスメントの結果が集まり始めていて、現時点で何ができるかというと、一人ひとりの生徒に対して、高校2年生の1学期が終わったタイミングで、あなたはこれまでの履修範囲でこれが苦手だったかもしれないけど、あなたみたいな勉強の傾向のある先輩のデータからすると、この後、高2の2学期以降、たぶんここでつまずくでしょう、というような、未来予測みたいなデータを、生徒や先生に返していたりします。

これは、先生の未来の授業開発にも非常に役立ちますし、生徒からしても、「よくわかんないけど、自分はこの先こういうところでもつまずくかもしれないんだ」というのは、勉強のメリハリになってくると思っています。こういったことも、今のところ世界でも、この規模と、テクノロジーを持っている我々しかできていないのかなという実感を持っております。またこちらは河合塾さんと組んだアセスメントなので、大学入試に対しても、到達度テストに対しても、しっかりとしたコンテンツになっていると思っています。

そして、こういった我々のサービスを使ってもらえば、スタディサプリforTeachersという先生のためのダッシュボードで、生徒がどの大学、専門学校を今志望しているのか、オープンキャンパスへは行ったのかといった進路情報から、日々の宿題をやったのか、アセスメントの結果がどうだったのか、といった情報も、自動的に管理することができます。

日々の校務で必要な生徒のポートフォリオ情報もそこで管理することによって、このインフラさえ使えば、先生方が生徒一人ひとりの情報をちゃんと正しく管理していける。またこのカルテを、クラス替えや学年が変わるときに、新しい先生に渡すことによって、生徒の情報を次の世代にきちんと受け渡していける。そうすることで、生徒に対して、年を重ねたしっかりとしたコミュニケーションができていくんじゃないかと思います。
こういうインフラがもっと当たり前になれば、小学校から中学校、中学校から高校、そして大学へと、このカルテをもちろんセキュリティもある中で手渡すことができ、新しい先生が、生徒に何も知らない状態から向き合うのではなく、過去の先生からの情報を受け取った上で向き合っていくということができる。そうすると、生徒への向き合い方の本質が変わってくるんじゃないかと思っています。最初に使うハードルはちょっと高く見えるかもしれませんが、ぜひ利用を考えてみていただけるといいかなと思っています。

ICTでできることは代替し、業務の効率化を

これまでの一斉授業、一斉宿題、みたいな中では、一人ひとりに対してパーソナライズされた、個人最適化された学習環境を、学校ではなかなか提供できなかったのではないかと思っています。僕はその結果が、日本の放課後の塾、予備校業界といわれる学び直しの産業をつくってしまったのではないか、と。

学習環境が学校の中で一人ひとりに最適になり、その学習効率が高まれば、放課後含めて、詰め込み教育をやるのではないPBL、アクティブラーニングのようなこと、もしくは部活のような人間力を育むようなことに、より時間が使えるんじゃないかと思っています。

それをやると同時に、裏側で先生の情報管理の効率化が図られることによって、先生方の生徒さんに向き合う時間、もしくは新しい教育プログラムを考える時間が創出できるんじゃないかなと思っています。

今、全国で5000校ぐらい学校がある中で、我々のサービス、約5分の1の1000校を超える学校で使い始めていただいています。約21万人ぐらいに使っていただいているので、高校生が300万人いると考えると、学校の中では21万人。

これを使った事例なんかもたくさん出ておりまして、今日皆さんのお手元に配っている学校の通りに、いわゆる進学校から進路多様校まで、さまざまな使い方ができると思っておりますので、ご興味があったらぜひ弊社にご連絡していただけるとうれしいです。

ということで、次の校長先生方のプレゼンと、お三方のスーパープレゼンとの間を結ぶ私のプレゼンとして皆さんに提案したいのは、「行く方向はわかった。そして、そこにすでに進化を遂げている学校の例は次のセッションでわかるんですけど、そうじゃない学校は、どうすればそこまで行けるんだ」といった場合に、まずとにかく今やっていることの効率化を図ろう、ということです。そこに、できればICTを使ったらどうでしょうかというご提案です。そうじゃないと新しいことはなかなかできませんよ、ということです。

ICTツールの代替が進む中、教師の本当の役割とは

これも僕の持論ですが、この世界が進むことによって、たぶん教師の役割、存在はなくなりません。ただ、より教師の役割は細分化され、先生がオールマイティーにすべてのことを行うのではなくて、基礎知識教育ということは、どんどんICTツールに代替されていくのかなと思います。

ただ、進路選択はキャリアカウンセラーの資格を持ったような人がすべての生徒の面倒を見るとか、これからで言うと、プロダクトベースドラーニングやアクティブラーニングみたいな授業開発、いわゆる対面型の授業開発こそ、先生しかできない、AIが代替できないようなプログラムになると思っています。

そのアクティブラーニング、もしくはプロダクトベースドラーニングみたいなもののカリキュラムコーディネーターとか、その生徒に提供する、いわゆるファシリテーター、もしくはメンターみたいな先生に、価値が出てくる。これがなくならない教師の役割になるんじゃないかなと思っています。

そんな波が、実はもうアメリカの方では生まれています。アメリカは文科省の存在がない中で、今どんどん学校が民営化されています。シリコンバレーにあるオルトスクールというところが代表的なんですが、いわゆるチャータースクールと呼ばれるような民営の学校がどんどん広まっています。

もちろんここには光と闇があって、功罪があるんですけど、いい面で言うと、スタディサプリのようなICTインフラを基礎知識教育にどんどん入れています。フリップトラーニングという反転授業なんかも含めて、一方通行の授業は、動画を含めたツールにどんどん任せていっています。

たぶんそれはこの後さらにツールに任されてコモディティ化していきます。英語を教える、数学を教える、ということに価値はなくなってくると思います。教師の本当の役割は、生徒と人間的に向き合い、人間力を育むこと

藤原さんの言っている、情報処理ではなく情報編集の方にある、アクティブラーニングやプロダクトベースドラーニングのような思考力、判断力、表現力を養うプログラムを作って提供するところに収れんしていくのが、アメリカの動きから見ても間違いないのかなと思っています。そして、教師にとっての大きな役割転換、意識変化を、効率化をしながらやっていくのが良いかと思います。

ICT導入の際に必要となるネットワークの充実

ただ、「やりたいのはわかった。ICTを使いたいとも思う。でも、うちにはそんな予算もないんだよ」というのが、お金がある私立校と違い、公立、県立校の現状のお話だと思っています。
やっぱりICTを使うには、ネットワークとハードとソフトがなくてはできません。でも残念ながら、これは全国の私立を見てもそうなんですが、Wi-Fiのようなインターネットを快適に使える環境は、わずか17パーセントしかありません。

総務省が2003年に、全国の学校にADSL回線を引きました。そのタイミングでは、学校現場のネットワーク環境は、日本は間違いなく世界1位でした。ただその後、誰もアップデートをしておりません。

結果として、ICTに興味関心のある自治体、学校のみがアップデートを繰り返しています。そして現状、インターネットを快適に使える環境である17パーセントの学校は、使える環境があるのに、ICTは使えない

そしてなぜか、ネットワーク環境はないのに、電子黒板とかタブレットが導入されている学校がある。ハードはあるけど、そのハードの上で本当に使うべきソフトがインストールされていない。

この改善を、ここ2、3年ずっと総務省に提案していて、2020年までに国と自治体が半々の予算を出し合い、全国の小学校、中学校、高校の、Wi-Fi環境を整えるという法案は、1年半前に国会で通りました。ただ、それが進んでいる感じがしないのが、ちょっと私が最近もやもやしているところではございます。

あとは自治体と国が実行してくれるかどうかだと思っています。ネットワークは、少なからず自治体と国の力を借りて、この数年でなんとかなってくるんじゃないかなと。

個人所有のデバイスを学習に使用する

次にハードなんですが、僕ここは一言ありまして。スマートフォンとかタブレット、皆さま個人でお使いになっているかと思うんですけど、このハードというのは、どうしても3年ぐらいで入れ替えることになりますよね。

ご自身の携帯電話って、3年か4年で買い替えると思うんです。それに対して、ハード1台の金額けっこう高いですよね。これを国家予算でまかなう、自治体でまかなうとなると、莫大な予算投資がかかってしまうんです。これが結果として、学校のICT化がなかなか進まない理由にもなるんです。

でも考えてみてください。今、高校生は、アンケートを取ると95パーセントがスマートデバイスを持っています。もしくはノートPCが家にあります。だとするならば、生徒さん個人のものでもいいんじゃないですか、と。まさに藤原さんが校長先生をされている一条高校では、生徒は保有しているスマートデバイスでICTの授業を受けています。

学校に来てWi-Fiにつなげば、通信ネットワーク代がかからないので、お金もかからないんです。それらをお持ちになっていない方の分は、学校でハードをちょっとだけ何台か備蓄して、貸し出せばいいじゃないですか。

そうすると、この一番莫大なお金がかかるハード代というのを、個人保有のもので代替できる。ソフトは、アナログなツールをスタディサプリのようなインフラで代替することで、副教材予算の中で十二分にまかなうことができます。そうすると、まず基礎知識教育のICTの利用環境が整うのかなと。

ここにプラスで、先ほど藤原さんがおすすめしたような、アクティブラーニングの授業でも使うようなソフトを入れていくと、あるべき新しい教育の形の中で、ICTがより積極的に使えるんじゃないかなと思っています。ぜひこのあたり、もし公立高校の方がいらっしゃったら、校長先生も含めて、教育委員会、もしくは自治体に、何かないんですかねというご相談をしてみると非常にいいと思います。

過去から脈々と続く教育現場からすると、インターネットで学ぶなんて、とか、システムを使うなんて想像できないと思っていらっしゃる先生方、もしくは生徒さん自身、やっぱりまだまだ世の中いっぱいいらっしゃると思います。

ただ間違いなく、少しずつ、特に生徒さんの方が、学ぶオプションとしてこういったICTツールを使い始めています。そして学校でもそういった取り組みが始まっていますので、ぜひ考えてください。

テクノロジーを敵にするのではなく使いこなす

学校でもICTのインフラとしてスタディサプリを使っています。特に放課後の時間で、利用を拡大しています。

やっぱり、英語・数学・理科・社会の授業にこだわり続けているんです。予備校で人気の先生をヘッドハンティングして、その授業の映像をつくるんですけど、すでに15,000時間分の授業があって。

これを、テレビ局じゃないですけど、毎日全部視聴率管理しているんです。視聴率が悪い部分は、再編集や再撮影をしているんです。学校の先生の授業が毎日視聴管理されて、制作部から、あなたの授業はここがこう駄目です、というふうに駄目出しされて、それを磨いて、また視聴率が上がったら良しだし、それが悪いままだったら、「もう先生教えないでください、次の先生にしますから。」というようなことを5年間やり続けているんです。

そういう中に、生徒たちが見飽きない授業、わかりやすい授業というところがあると思いますし、これを突き詰めていくと、究極の授業みたいなものが出てきます。そういうところに問題とか宿題みたいなのは任せて効率化し、先生自身の時間を他のことに充てるというのも、これからの新しい考え方の一つなんじゃないかなと思っています。

テクノロジーというものを、敵ではなく、使いこなす仲間という意味で、ぜひ先生方と一緒につくり上げていきたいので、利用を考えていただきたいなと思っています。

この後、休憩の後に、本当にいろんなチャレンジをされている6校の情熱的なお話が続くと思いますので、ぜひそちらで楽しんでいってください。本日はご清聴ありがとうございました。

MANABI MIRAI MEETING 2017  山口 文洋 教員の働き方改革を推進するスタディサプリ ~教育改革を実践するためのICT活用の必要性・可能性について~

2017年9月23日に、リクルート本社ビルにて開催されたMANABI MIRAI MEETING 2017。半歩先の教育のカタチをみんなで考える場として、多くの教員の方々にご参加いただきました。

教育の現場でICTインフラを活用すると、どのようなメリットがあるのか。また、一部の仕事をICTが代替するようになった時、教師の本当の役割とはどういったものになるのか。実際のICT活用事例や、導入する際のハードルを克服するヒントを交えながら、「スタディサプリ」生みの親である(株)リクルートマーケティングパートナーズ代表取締役社長の山口文洋が講演します。
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