松江西高等学校(島根) 松江西高等学校校長/塩冶 静雄先生
※ 掲載内容は2018年10月現在のものです。
教育の大きな転換期の中で 目の前にいる生徒にとって何がベストかを考えたい!
建学の精神をゴールに 時代に合った教育理念を体系化
島根県松江市の橋南地区に位置する当校は、大正13年に経理学校として設立され、今年で95周年を迎えます。この間の卒業生数は1万6千人を数え、地域に根ざした学校として現在に至ります。建学の精神は「真に社会に役立つ実践的人材の育成」。10代目の校長を拝命した際、建学の精神があまりにも崇高であり、果たして高校3年間でこうした人材を育成できるのか、不安がありました。
そこで取り組んだのが、建学の精神をゴールとした教育理念の体系化でした。育てたい生徒像を「基礎・基本を身につけ、将来像をもった明るく活力ある生徒」に設定し、それら教育理念を具現化するための基盤として、「基礎学力」と「社会力」「健康・体力」の3つの力を掲げました。最終的な目標は「真に社会に役立つ実践的人材の育成」ですが、生徒一人ひとりの人生は高校卒業後も続きます。大学・短大・専門学校・就職を経て、最終的に「真に社会に役立つ実践的人材」になれればいい。むしろ、高校3年間はその基盤づくりをするべきという狙いがありました。
「育てたい生徒像」の「3つの力」からブレイクダウンする形で、学年ごとに、1年生は基盤づくり、2年生は試行錯誤、3年生は自己実現という目標を策定。また、当校5代目の校長が掲げた「未見の我の発見」を教育テーマとして据えました。当校には自己肯定感の低い生徒が多く、どんな人間にもいいところは絶対にあると気づいてほしかったからです。教育理念を再定義したものの、実行が伴わなければ意味がありません。実行を推進するのは現場に立つ教員たち。目の前にいる生徒をしっかり見る(観る・視る・診る・看る)ことを教員に訴え、当校の教育改革がスタートしました。
学習習慣を形成する方程式、 それは内発的・外発的動機付けから
当校が教育改革に乗り出したころ、大学合格実績を上げるために、下位層よりも上位層の生徒を優先した特別授業を行っていました。しかし、生徒の大半は基礎学力が定着していない下位層から中位層。特に中学校の既習事項を積み残したまま入学してくる生徒が多く、いかに生徒たちの基礎学力を育てるか、それが当校の課題でした。現在は、他社の基礎力診断テストやスタディサプリを導入して学び直しに注力し、朝学習の時間に新聞のコラムを活用して語彙力向上に取り組んでいます。
基礎学力の定着と同様に注力してきたのは、学習習慣の形成です。基礎学力が「学びを通して身についた学力」であるならば、学習習慣は「学びに向かう学力」。学習習慣は基礎学力とともに、学力を構成する両輪として欠かせない力ですが、当校の生徒にとってより重要だったのはやはり学びに向かう学力でした。学びに向かう学力を身につけさせれば、教員から「勉強しなさい」と言われなくても取り組む。そして、「勉強が嫌い」と考えている生徒たちにも、やれば必ずできるし、勉強してわかると楽しいということを気づかせたかったのです。そこで取り組んだのがキャリア教育と放課後学習です。キャリア教育では「将来へのイメージがあるからこそ、日々の学習への姿勢につながる」という考えのもと、地元島根の公共財団法人と協力してキャリア・カウンセリング・プログラムを作成。勉強したことが将来何に役立つのか、という内発的動機付けを行っています。
また、外発的動機付けの取り組みとして行ったのが放課後学習です。放課後の時間を利用して、生徒に学習を促しました。この放課後学習に参加しなければ部活動に参加できないため、多くの生徒が放課後学習に参加することを選びます。なかば強制的なやり方でスタートしましたが、学習習慣がない生徒に自学自習を浸透させるためには必要なステップでした。当初は「毎日勉強するのはつらい」と言っていた生徒も、次第に勉強がわかるようになり、「勉強がわかるようになって楽しい」と言う生徒も現れはじめ、少しずつ学習習慣が形成されていく手応えを感じました。教員から生徒に対して「勉強しなさい」と言うのは簡単です。しかし、勉強したことが何に役立つのか、勉強がわかるとどうなれるのか、を生徒自身に気づかせる動機付けこそが最も大切。当校が考える、学習習慣形成の方程式が見えた瞬間でした。
「改革ありき」ではなく 自校の生徒に合った教育を追求する覚悟
いま、社会は大きく変わろうとしており、教育のあり方についても大きく変わろうとしています。教育改革の流れの中で、現場はアクティブラーニングをはじめとした新しい授業への対応に追われていますが、言葉や改革自体が先行し、あれもこれもと取り入れて消化不良を起こしては意味がありません。大切なのは自校では何ができるのかを考え「目の前にいる生徒をしっかり見る」ということ。流行っているから取り入れるという文脈ではなく、流れの中に自校の生徒を当てはめ、「自校の生徒には何が必要か」を教員が判断するということです。当校の場合、生徒の大半が地元へ進学・就職するため、グローバルよりもローカルに注力することを優先しています。「大学入学共通テスト」の導入が決まっていますが、それよりも、基礎学力の定着度合いを測定する「高校生のための学びの基礎診断」を重視していきたいと考えています。
いま、当校で挑戦しているのは、他にはない当校の生徒に合った教科書を作ること。こうした取り組みは、現場に立つ教員がいて初めて実現できると思います。これまで、教員には生徒に対して授業のポイントや知識を伝えることだと考えられてきました。しかし、これからの教員には、生徒たちに気づきを与え、生徒の中にある答えを引き出すことにあると考えています。その意味では、教員もコーチングスキルを身につける必要がありますし、校長には教員が積極的に授業を行えるよう環境づくりを求められるでしょう。経営トップというと、「強力なカリスマ性のあるリーダーシップで組織を引っ張る存在」という印象を持っている人も多いと思います。しかし、私が目指す校長像はハイブリッドリーダー。ハイブリッドとは、それぞれの良いところを集め、効率をよくすることです。教員たちの意見や思いを寄せ集め、当校の次世代の核となる教員を育てることをやりがいに、学校経営に携わっていきたいです。
松江西高等学校(島根) | |
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学 科: |
普通科(特別進学コース/総合コース)、 総合ビジネス科(情報系列/会計系列/ビジネス系列) |
生徒数: |
1学年166名 2学年148名 3学年168名 |